日本地質学会ジオパーク設立推進委員会
 日本地質学会内にジオパーク設立推進委員会が設置され、去る10月12日第1回の委員会が開かれました。委員長は加藤碩一副会長(産総研東北センター長)です。初回の会合ですから、最初に岩松GUPI専務理事によってジオパーク制度の解説が行われた後、議論に入りました。「日本で少なくとも3・4のジオパークを認定させたい」「ユネスコ認定だけでなく国内で地質の普及を目指す国内版ジオパークも推進しよう」「地質学会学術大会の度に開催地の自治体も含めたジオパークのシンポジウムを行ってジオパークをPRしてはどうか」、「広く募ると同時に、先ずどこか一つ成功例を作いたい」「世界ジオパークの紹介を『地質ニュース』に連載してはどうか」「平易な国立公園の地学ガイドブックを作成しては」「ナショナルプロジェクトである以上、中央省庁も動かさなければならないが、どうそれを進めるか」等々いろいろな意見が出されました。なお、発足時の委員は以下の通りです。
佃 栄吉(産総研)、脇田浩二(産総研)、佐々木靖人(土研)、植村和彦(国立科博)、足立 守(名大博物館)、天野一男(茨城大・地質関連学協会連合)、高橋正樹(日大)、高木秀雄(早大)、田崎和江(金沢大・IGCP)、大矢 曉(GUPI・IYPE)、岩松 暉(GUPI)

日本地質学会関東支部シンポジウム

 去る10月16日国立科学博物館において日本地質学会関東支部シンポジウム「地球から読み取る未来―かけがえのない地質遺産からみえるもの―」が開かれました。プログラムは次の通りです。
・次世代のために地質遺産を守る−日本のジオパークのとりくみ−
   …岩松 暉(GUPI)(講演要旨は次頁)
・観光資源としての地質遺産(富士箱根地域を例に)
  …高橋正樹(日大)
・地学教育からみた地質遺産
  …府川宗雄(元東京都立千歳高等学校)
・“地質遺産”:博物館はどのような役割を果たすことができるか?
  …平田大二(神奈川県立生命の星・地球博物館)
 当日は雨模様のあいにくの天気でしたが、多くの方が集まり、総合討論も活発に行われました。学会の際に必ずもたれる巡検の中に一般人を対象としたジオツアーも一つ加えてはどうかといった具体的な意見もありました。

次世代のために地質遺産を守る−日本のジオパークのとりくみ−
(NPO)地質情報整備・活用機構 岩松 暉
 1.はじめに
 自然多様性条約が発効し、絶滅危惧種の保全が叫ばれている。 貴重種を動物園や植物園に保存しておけば済む問題ではない。 だからこそ、条約では「その生息環境とともに」保全するとうたっているのである。 高山のお花畑に行けば、砂岩のところと泥岩のところで花の種類が違っているし、石灰岩にしか生えない苔もある。 生物多様性 biodiversity を保全するためには、つまるところ地質多様性 geodiversity を保全しなければならないのである。 そこで、ヨーロッパでは geodiversity を守る運動や geoconservation 運動が盛んになってきた。 例えば、イギリスでは English Nature という政府機関が Local Geodiversity Action Plans (LGAPs) を策定し、地方自治体もそれに応じた Action Plan を実行している。

2.ユネスコのジオパーク
 こうした流れと呼応するかのように、ユネスコでは1997年 UNESCO Geopark Programme を提唱、2004年に Operational Guidelines for National Geoparks seeking UNESCO's assistance を定めた。 すなわち、
・地質学的重要性だけでなく、考古学的・生態学的もしくは文化的な価値もある1ないしそれ以上のサイトを含む地域である。
・持続可能な社会・経済発展を促進するための経営計画を有する(例えばジオツーリズム)。
・地質遺産を保存・改善する方法を示し、地質科学や環境問題の教育に資する。
・公共団体・地域社会ならびに民間による共同行動計画を持つ。
・世界遺産の保存に関する最善の実践例を示し、持続可能な開発戦略へ融合していく国際ネットワークの一翼を担う。
 ユネスコ地球科学部長F. W. Eder 氏はこれを端的に「保全」・「教育」・「ジオツーリズム」と要約している。 このガイドラインに従って現在33個所のWorld Geoparksが認定されており、うち12個所が中国、21個所がヨーロッパである。 なお、中国では「地質公園」と漢訳している。同じ漢字文化圏の国として日本でも地質公園とすべきなのかも知れない。

3.日本にもジオパークを
 上述のように、既存のジオパークは大陸の地質ばかりで島弧の地質は一つもなく片手落ちである。 ぜひわが国にもジオパークが欲しい。 それは災害列島に住む日本人にとって不可欠な国民教養とも言える地学のリテラシーを向上させるのに大いに資するに違いない。
<注>当日使用のスライドは http://www.gupi.jp/geopark/ppt/gsj-kanto.htm にあります。

PDFファイル(1.5MByte)も用意しました。 こちらからどうぞ